妊娠初期の低血糖が胎仔の骨発生に及ぼす影響について正常 (n=19) および軽症糖尿病ラット (n=18) を用いて検討した. 雌性のWistarラットに30mg/kgのストレプトゾトシンを投与し, 2ないし3週後に交配した. 感受期に相当する妊娠10.5日に速効性インスリン400mUを腹腔内投与し, 対照群には生食水を投与した. インスリンの投与により50mg/dl前後の低血糖が約70分間持続した. 妊娠20日に胎仔をとりだし, アリザリンレッドSとアルシアンブルー8GSによる重染色で, 骨・軟骨発現の検索を施行した. インスリン低血糖により吸収胚が増加し, 仔の骨の化骨度は著明に遅延した. 胸骨, 肋骨および肋軟骨の奇形も増加した. 骨奇形に及ぼす母体低血糖の影響は正常ラットより軽症糖尿病ラットの胎仔において大であった.以上の成績は, 妊娠初期の母体低血糖が, ラット胎仔の骨の成長および奇形に密接に関与することを示唆している. また, 母体の軽度の耐糖能異常は低血糖の催奇形性を増幅するのではないかと考えられる.