1992 年 35 巻 12 号 p. 1001-1006
約1年の経過で高度の四肢筋力低下と感覚鈍麻が進行した47歳の糖尿病女性を報告する. 当初, 糖尿病性神経障害として加療を受けたが症状は進行性に悪化, 運動神経伝導検査で上肢諸神経に誘発筋電位の著明な振幅変化と伝導速度低下がみられ, 多地点刺激による詳細な伝導刺激によりmultifocal conduction blockが確認された. 生検腓腹神経の有髄線維はほぼ完全に消失し, 菲薄髄鞘線維がわずかに残存していた. 本例の神経伝導異常は炎症性脱髄性神経炎の特徴的所見で, 糖尿病性神経障害の伝導異常としてはこれまで報告がない. 症状が緩徐進行性であったことから, 本例は糖尿病に慢性炎症性脱髄性多発神経炎 (CIDP) を併発した症例と考えられた. CIDPは治療可能であることから, 糖尿病性神経障害との鑑別が重視される. CIDPと糖尿病との併存は軸索変性を激化させる危険をはらんでおり, 早期診断が重要である.