抄録
後腹膜腫瘍を有する50歳男性. 自発性低血糖と低インスリン血症を認め膵外腫瘍性低血糖症と診断した. 血中IGF-II濃度は高値で大分子量IGF-IIが多く, 結合蛋白複合体の血中存在様式にも異常を認め, 血中IGF-1濃度は低値だった. またブドウ糖静注試験ではインスリン分泌初期相は保たれたが, IRI濃度は時間と共に急激に低下した. ブドウ糖経口負荷試験ではインスリン分泌量は全体として抑制された. グルカゴン負荷試験では完全に抑制され無反応だった. 腫瘍摘出後, 低血糖は消失し, 上記体液因子および検査特性は正常化した. 以上より本例では腫瘍によりIGF-IIとその複合体の濃度や性状が変化し, また膵インスリンが各々の刺激に異なる様相の抑制を受ける事が分かった. これはなんらかのインスリン分泌抑制に関わる因子が, 本腫瘍のもつ固有の特質やIGFIIの作用に関係する可能性を示唆し, 本病態の解明にとって興味ある知見と考えた.