1997 年 40 巻 11 号 p. 741-747
高カロリー輸液 (TPN) 中に食後低血糖を頻発した稀な症例を経験したので報告する. 症例は76歳, 男性. 1994年7月肺アスペルギルス症により右肺切除術を施行. その後全身倦怠感食欲不振のために同年12月8日入院食欲不振が強く, 第33病日よりTPN (1, 680kcal/日) を開始し, 経口にて900kcal/日の食事を摂取した. TPN開始16日後頃より食後3~4時間目に低血糖発作が頻発した. しかしTPNを中止することによって食後低血糖は消失した. TPN中の食事負荷試験では, 2時間後にインスリンの過剰分泌 (IRI220μU/ml) を認め, 3時間後の血糖は40mg/mlまで低下した. TPN中止後の食事負荷試験では, IRIのピーク値は15μU/mlと正常化し, 血糖も正常パターンを示した. 高濃度ブドウ糖持続刺激下の膵潅流実験ではインスリン過剰分泌が報告されている. 本例はTPNによる高濃度ブドウ糖持続静注下で, インスリン分泌が持続的に亢進し, さらに食事刺激により過剰反応を起こしたため, 反応性低血糖を生じたと考えられた.