抄録
症例は, 51歳のインスリン非依存型糖尿病(II型糖尿病患者) で自律神経障害, 前増殖性網膜症と軽い高血圧を合併していた. 糖尿病歴は20年で, インスリン治療による血糖コントロールは不良であった. 胸部X線に異常はなかった.臨床上明らかな胸部症状はなかったが, 心電図では左室肥大と虚血性変化を示した.M-モードとドツプラー心エコーで左室収縮能と拡張能の異常を認めた. 血管造影では冠動脈に有意狭窄はなかったが左室壁運動のび慢性低下を認めた. これら検査結果と心筋生検で細動脈壁のピアリン性肥厚, 内腔狭小化を認めたことから糖尿病性心筋症と診断した. 1995年, 12月31日, 夕食後に自宅でテレビを見ている最中に突然死した.死亡の詳細な機序は明らかではないが糖二尿病性心筋症に伴う急激なポンプ失調 (心停止) や心室細動が本例の予期せぬ突然死の原因であった可能性が示唆された. 糖尿病性心筋症は特発性心筋症同様, 糖尿病患者の突然死の一因となり得ると考えられた.