抄録
症例は46歳の糖尿病男性で, 高速液体クロマトグラフィ (以下HPLCと略す) 法にて測定したHbA1c値 (4.6%) と血糖値に解離が見られ, ヘモグロビン (以下Hbと略す) 溶出パターン上, 正常では見られないピークをAlcに隣接して認めた. 免疫比濁法で測定したHbA1c値は11.0%であった.
溶血液の等電点電気泳動ではHbAとHbA2の間に異常バンドが認められ, 高分解能HPLCにより異常Hbとその糖化Hbが検出された. 異常Hbと正常HbAの糖化率は10.4%と同値であり, この値は免疫比濁法によるHbA1c値に近似していた. グロビン検体のエレクトロスプレーイオン化質量分析 (ESI/MS) により, 正常β鎖より58Da小さい分子量の異常β鎖の存在が明らかとなり, さらにトリプシン分解物のHPLC-ESI/MS分析によりβ鎖52番目のアスパラギン酸がグリシンに変異していることが見い出された.
β鎖52番の変異はこれまで3種報告されているが, Asp→Glyの置換は世界で例がなく, HbHokusetsuと名付けられた. Hb Hokusetsuは臨床的に異常を示さない無症候性の異常Hb症である.