この10年の間に,企業にとって情報セキュリティ投資の重要性は非常に高くなっている.そこで本論文では,情報セキュリティ投資と研究開発投資とを行なう企業の投資行動を分析する.そのために技術スピルオーバーがあるときに,情報セキュリティ投資と研究開発投資とをクールノー市場競争に先立って同時に行なう2つの企業の2段階ゲームを定式化する.まず,より一般的な関数によるモデルを用いて,情報セキュリティ投資量の増加が企業の利潤を増加させる仕組みを明らかにする.つぎに,費用関数と逆需要関数とを線形関数にしたモデルを用いて,最適な企業の投資行動とゲームの均衡とを導出する.その結果から情報セキュリティ投資量は,競争相手の情報セキュリティ投資量とは戦略的代替の関係にあり,研究開発投資量とは技術スピルオーバーが十分に小さいときには戦略的代替の関係に,大きいときには戦略的補完の関係になることを示す.そしてゲームの均衡においては,市場が縮小するときには情報セキュリティ投資量を減少が,また情報拡散の可能性が高くなるときには情報セキュリティ投資の費用が十分に高いときに限り,投資量の増加が,最適な投資行動であることを示す.最後に,均衡においては情報セキュリティ投資が企業の研究開発投資を低下させることを示し,企業の情報セキュリティ投資量に対するコミットメントと研究開発水準との関係を明らかにする.