観光学評論
Online ISSN : 2434-0154
Print ISSN : 2187-6649
温泉の効能から見た伊香保温泉の近代化
温泉番付、錦絵、温泉案内書を手がかりに
樽井 由紀
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2014 年 2 巻 2 号 p. 155-168

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抄録

本稿は明治期の伊香保温泉を取り上げて、温泉番付や温泉錦絵といったビジュアル資料と温泉案内書に基づき、特に温泉の効能の表現の変化を探った。温泉地の近代化には、明治政府に招かれたドイツ人医師ベルツの影響が大きく、内務省衛生局の成分分析と効能は、ベルツのインパクトに吸収される形で後から活用されたことがわかる。その過程を物語るのが、伊香保の湯元や旅館の主人によって進められた、ベルツと内務省の権威を遠慮なく拝借した宣伝キャンペーンである。しかし温泉の効能が、明治の社会変化とともにすぐに洋風になったわけではない。伊香保温泉の効能書きは、西洋医学に基づく内務省衛生局の効能に、江戸時代以来の漢方医学に基づく伝統的な効能を混合したものとなり、それが明治30年代に至るまで続いている。これは、西洋医学による症状・病名に、漢方医学の分類を適用することによって、伝統的な効能をも含み込むような、拡大解釈が行われた結果であった。西洋医学の知識のない湯治客に対して温泉の効能を宣伝する目的からすれば、半ば意図的である反面、半ば無理もないともいえる。

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