本稿の目的は観光地化する聖地において、「聖地らしさ」の維持・生成を果たす要素を、特に聖域管理の技法や仕組みの空間的な展開に着目しながら民族誌的に明らかにすることである。沖縄にある斎場御嶽は琉球王国時代より最高位の聖地として信仰を集め、世界遺産にも登録されているが、2010年代に入り急激な訪問者の増加を見ている。その結果聖域の管理主体にとっては単に自然環境を維持するだけでなく、場所に埋め込まれた信仰や宗教性の維持が課題となっている。聖地の宗教性がいかに持続可能であるか明らかにするには複数の着眼点があるが、本稿では立て札、参道、ゾーニングといった可視的な管理技法に特に着目し、それらが訪問者の行動や意識に働きかけている状況を描写することを目指した。本稿ではこうした構造物やモノ、ボランティアを含む公共的な管理の仕組み、そして文化遺産の保護制度が聖地空間において結びつくことで、宗教とツーリズムの対立が(不完全ながらも)回避されている状況が明らかとなった。