観光学評論
Online ISSN : 2434-0154
Print ISSN : 2187-6649
巡礼―インフラ―電子網
現代チベットの聖地と辺境市場経済システムの連環
別所 裕介
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2016 年 4 巻 2 号 p. 177-193

詳細
抄録

本稿は、青海チベット最大の聖山であるアニ・マチェンを対象に、「社会主義近代化」を標榜する中国の周縁部で再形成される民衆的な宗教実践領域について検討するものである。現代中国領チベットでは、2000年に始まる「西部大開発」(現在第二期)の15年に及ぶ継続により、巨大ダムと水力発電所による電力網、道路・空港及びチベット鉄道からなるインフラ網、さらに3Gブロードバンド回線による情報通信網がチベット人の生活社会を広くカバーしつつある。国家主導の開発に伴って広がる近代性のネットワークは、これまで厳しい自然環境に立地することで生活社会から隔絶されてきた伝統的なチベット仏教の聖地をも等しく包摂し、インフラと電子ネットワークに支えられた辺境特有の市場経済システムが聖地とそこへの巡礼活動の社会的存立に根底的な影響を及ぼしている。宗教性と近代性が複雑に絡み合って展開されるこうした状況は、仏教伝統の規範性を重視して聖地の構造を研究してきた既存の研究枠組みでは十分に捉え切ることができない。本稿では、当該聖山における集約的なフィールドワーク資料を用いて、「近代国家の内側での聖地の再形成」について総合的な検討を試みる。

著者関連情報
© 2016 観光学術学会
前の記事 次の記事
feedback
Top