抄録
発生毒性学は、個体発生過程に於けるダイナミックな遺伝子発現調節の分子機構を基礎に、より正確なものに補強されることが分子発生研究から示されている。分子毒性研究の応用として、我々は、化学物質トキシコジェノミクス・プロジェクト(Percellome project)により、毒性発現分子メカニズムに支えられた、より正確、迅速、安価なリスク評価系の開発研究を推進している。ここでは、このPercellome projectの発生毒性への適用のモデル実験として、遺伝子欠損マウス胚を用いた解析例を報告し、この技術的妥当性を示す。
モデルとしての当該遺伝子は、bHLH型転写因子MesP1およびMesP2遺伝子とした。両遺伝子は、発生初期の原腸陥入直後における中胚葉において一過性の発現を示す(胎生6.5-7.5 日)。このホモ欠失胚は、胚性中胚葉を欠き、原腸陥入部位には未分化中胚葉が蓄積するという表現型を示した上で、胎生10.5日に胎生致死となる。ホモ欠失と野生型のキメラ胚の解析から、これらの遺伝子が心臓中胚葉形成に必須な遺伝子であることも明らかにしてきた。経時変化ならびに機能面から、この遺伝子カスケードに注目し、胎生6.5日および7.5日の野生型ならびにホモ欠失胚の遺伝子発現を、GeneChip MOE430v2 (Affymetrix社)(約45,000プローブセット)を用いて網羅的に解析し、比較・検討した。
ホモ欠失胚で発現が減少している遺伝子群として、心筋細胞あるいは血管内皮細胞の発生に関与する遺伝子群がリストアップされてきた。従って、発生毒性に向けたこの解析技術の妥当性を検証することが出来たものと考えられた。野生型胚全胚(胎生7.5、8.5、9.5日)の全胚遺伝子発現プロファイル・データベースを構築済みであり、現在、モデル催奇形性物質投与によるマウス胚を用いた遺伝子発現変動解析を検討中である。
(本研究は厚労科研費・H15-化学-002「化学物質リスク評価の基盤整備としてのトキシコゲノミクスに関する研究」による)