抄録
【目的】薬物誘導性フォスフォリピドーシス(PL)は, リン脂質がライソソームに蓄積し細胞内封入体(ラメラボディー)を形成する現象であり, ライソソームの腫大や他のオルガネラの障害を引き起こし, 細胞死にまで至ることがあることから毒性学的に重要な所見である。従来,PLの検出法は動物に薬物を反復投与し, 臓器の電顕標本にてラメラボディーを確認していたが, 少量の多検体を短時間で評価する手法としては不向きである。そこで本研究では, 培養細胞を用い, 蛍光標識リン脂質(NBD-PC)の取り込み量から, PLの感度および精度のよい迅速な評価方法を確立したので報告する。【方法】CHO細胞などの動物種, 由来組織の異なる7種の初代培養細胞あるいは細胞株を96穴プレート上で24時間, 37℃にて培養後, NBD-PCおよび数種のPL惹起物質を添加してさらに24時間培養した。細胞を洗浄後, 蛍光プレートリーダー(Ex/Em:480/540)でNBD-PCの細胞への取り込み量を測定した。さらに, ヘキスト33342を添加して, 蛍光プレートリーダー(Ex/Em:360/460)で細胞のDNA量を測定した。また, CHO細胞におけるNBD-PCの取り込み量と電子顕微鏡像の所見を比較した。【結果・考察】初代培養細胞と細胞株の間では, 細胞株の方がPLの検出感度が高い傾向があった。動物種間及び由来組織間では, PLの惹起に大きな差は認められなかったが, 感度の点でCHO細胞及びCHL細胞が最も優れていた。また, 細胞数の指標としたDNA量でNBD-PCの取り込み量を補正したところ, 精度・再現性の良好な結果が得られた。さらに, CHO細胞を用いたPLの程度は, 電子顕微鏡像で得られた所見と相関した。以上, 我々はDNA量から細胞毒性の程度を数値化して補正することにより, 96ウェルフォーマットでPLを感度・精度よく迅速に評価できる系を確立した。