日本トキシコロジー学会学術年会
第36回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: S2-4
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日本薬理学会合同シンポジウム ES細胞およびiPS細胞を利用した薬理学,トキシコロジー研究とその将来
ES細胞のトキシコロジーへの応用 (1)現状と期待される応用:特に心毒性について
*篠澤 忠紘
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抄録

ヒトへの外挿性の向上を目指すため、ヒト初代細胞を用いた種々の試験系の利用が試みられているが、細胞ロット間のばらつきや入手困難な細胞種があるため、試験系の発展が制限されている。また、hERG試験など1種類の分子を導入したリコンビナント細胞を用いた試験系も活用されているが、より正確な評価を行うためには機能に関与する複数の分子を保持する細胞が必要となることもあり、ヒトにおける副作用を効果的に予測するには多くの課題がある。胚性幹細胞(ES細胞)は、分化誘導により安定的に均一な各種の分化細胞を生産でき、また、分化細胞はリコンビナント細胞に比べ、より生理的な機能を保持することから、効率的で精度の高い副作用予測を行える可能性を持つ。 今回、我々はマウスES細胞から分化誘導により得られた心筋マーカー陽性分化細胞を用いて網羅的遺伝子発現解析を行い、安全性研究に利用できる可能性のある機能を探索した。Ingenuity Pathways Analysisを用いて、分化誘導により発現変動した遺伝子群を解析したところ、分化細胞は心筋関連のネットワークを保持していることがわかった。また、イオンチャネル関連遺伝子について、成体心室筋との比較解析を行ったところ、カルシウム及びカリウムチャネル遺伝子群において、成体心室筋の遺伝子発現に類似する遺伝子が多く含まれることがわかった。実際に、分化細胞は自律拍動能を保持し、イオンチャネルブロッカーにより拍動機能は影響をうけることが確認された。また、troponinやactinなど構造的に拍動機能に関係する遺伝子発現の多くも、成体心室筋のそれと類似しており、透過型電子顕微鏡観察の結果、分化誘導後の培養日数の経過に伴い形態的に成熟していることが示唆された。以上の結果を含め、本シンポジウムでは、ES細胞さらにiPS細胞の安全性研究における新たな可能性について考察したい。

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© 2009 日本毒性学会
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