抄録
【緒言】有機リン系殺虫剤は農作物の生産効率向上あるいは品質保持を目的として使用するほかに、衛生害虫防除のために一般生活環境中で使用されている。近年では有機リン系殺虫剤への慢性的な曝露による精神神経機能や生殖機能への影響が示唆されており、今後さらに調査を進める必要がある。このような研究の進展には有機リン系殺虫剤の曝露レベルを正確に把握することが必須であり、近年では尿中の代謝物レベルをモニタリングすることでその曝露レベルを評価する試みが進んでいる。しかしながら、我が国における有機リン系殺虫剤の尿中代謝物に関するデータは少ないのが現状である。本研究では日本における一般生活者および殺虫剤撒布作業従事者の尿中代謝物量を調査したので報告する。
【方法】対象者は、職業的な殺虫剤曝露を受けることのない流通業に従事する20-68歳の男性249名(非曝露群)および殺虫剤散布事業所に所属する19-69歳の男性59名(職業的曝露群)である。早朝尿中の有機リン系殺虫剤代謝物DMP (ジメチルリン酸)、DEP (ジエチルリン酸)、DMTP (ジメチルチオリン酸)およびDETP (ジエチルチオリン酸)を、ガスクロマトグラフ/質量分析計を用いて測定した。
【結果・考察】尿中代謝物(DMP, DEP, DMTPおよびDETP)の幾何平均値は非曝露群では15.3、1.6、4.9、0.4 g/L、職業的曝露群では57.2、2.8、10.0、0.7 g/Lであり、いずれの代謝物もマンホイットニーU検定にて群間で有意な差を検出した。非曝露群の尿中代謝物濃度はアメリカやドイツで既に報告されている濃度に対して若干高値であるか同等であり、日本における一般生活者集団の日常的な有機リン系殺虫剤の曝露レベル量は、これら両国とほぼ同水準であると考えられた。