一般に覚せい剤は強いストレスのもとで使用されることが多く,その作用にストレスの影響を考慮する必要があると思われる。そこで,
覚醒剤メタンフェタミン(MA)の心筋に及ぼす急性中毒作用に焦点をあて,ストレスの影響を検討した。
【材料と方法】実験には雄性C57BL/6Jマウスを用い,ストレスは水浸拘束ストレス(WRS)で検討した。MAはWRS直前に30 mg/kgを1
回腹腔内投与した。マウスを24℃の水槽に拘束し,一定時間後に血液と心筋を採取した。心筋の一部はホモジナイズ後,15,000 rpm
の遠心上清をHsp70測定の試料とした。一方,心筋から常法にしたがってRNAを抽出した。遺伝子発現はHsp 70, 60, 90, HO-1につ
いてreal-time PCRで比較検討した。心筋中のHsp70および血中のTroponin I, H-FABPはELISAで定量した。
【結果と考察】心筋障害マーカーとして,血中Troponin IおよびH-FABPを測定した。Troponin IはMA単独群では,3hで個体差が大
きく高値を示す個体もあったが,6hでnormal値にもどった。他方MA+WRS群での値は経時的に上昇した。H-FABPは1h, 3h, 6hに
おいてMA単独群に比べ,MA+WRS群で高値を示した。次に,心筋でのHsp70遺伝子発現を検討した結果,MA単独群の1hおよび3h
において高値が得られた。とくに3hでは個体差が大であったが,この個体レベルはTroponin Iでの個体レベルとよく一致した。また
HO-1, Hsp60, Hsp90の遺伝子発現についても同様の結果であった。WRS, 3hにおける心筋でのHsp70のタンパク量を測定した結果,
MA単独群で高値が得られた。以上,MAの心筋に対する作用は強いストレスによって大きな影響を受けることが示唆された。すなわち,
WRS(-)MA群の心筋では,防御機構としてのHspsの発現が促進されるが,WRS(+)MA群では,その発現がほとんどみられず,障害
が惹起されることが示唆された。