抄録
薬の体内動態の制御に大きな寄与を占める薬物代謝酵素やトランスポーターの発現制御に関して、転写因子や核内レセプターを介した転写調節機構の情報がかなり蓄積されてきた。しかし、蛋白質発現量とmRNA発現量との間に相関関係が認められないことがあり、転写後調節の関与が示唆される。そのメカニズムの1つとして、microRNAが薬物代謝酵素、トランスポーターおよび核内受容体の発現制御に関与することが明らかになった。生体外異物の解毒や内因性化合物の生合成の制御にも関わるmicroRNAの役割について演者らの研究成果を中心に概説する。
microRNAの発現は、病態によって変動するだけでなく、様々な化学物質、環境汚染物質、薬物などの曝露によって変動することが示されている。microRNAは、RNAポリメラーゼIIによってprimary miRNAに転写された後、プロセッシングを受けて、precursor miRNAを経てmature miRNAへと成熟する。しかし、microRNAの発現変動の機構に関しては不明な点が多い。演者らは、microRNAの発現変動における転写・転写後レベルにおける調節の関与、またmRNAの発現変動との関係について明らかにすることを目的として、様々な薬物代謝酵素やトランスポーターの発現を制御する核内レセプターpregnane X receptorのリガンドであるリファンピシンをヒト初代培養肝細胞に処置し、microRNAの発現変動とmRNAの発現変動を網羅的に解析した。得られた結果について考察を加えて紹介する。
また、microRNAは血中に安定に存在し、癌や糖尿病などの病態を反映するバイオマーカーとしての有用性が注目されてきている。演者らは、健常人における血中microRNAの発現における個人差および個人内変動について解析し、興味深い知見を得たため、そのデータについても紹介したい。