抄録
化学物質の生体影響が、暴露後に時間を経て顕在化する現象を説明しうる仕組みとして、エピジェネティクスが注目されている。エピジェネティクスは、ゲノムDNAがヒストンに巻き付いて出来るヌクレオソームへの後天的な修飾による転写制御機構であるが、修飾の実体、修飾を制御するタンパク質、修飾を読み取り転写制御を実行するタンパク質など、基本機構が日々解明され続けている。更に、塩基配列レベルの解像度でゲノム全体のエピゲノム状態を解析する技術も利用可能になり、基礎研究の著しい進展を後押ししている。
JSOT2011のシンポジウム1において、化学物質がエピジェネティクス制御に関わり生体影響を及ぼす現象を「エピジェネティック毒性」と定義し、今後の毒性研究における重要性を強調した。本シンポジウムでは、まず基礎研究の進展について、中島欽一先生、五十嵐和彦先生、滝沢琢己先生から各先生が繰り広げられている先進研究を紹介して頂き、エピジェネティック毒性の背景となるエピジェネティクス制御の理解を進める。次に、今井祐記先生、伏木信次先生から疾患や化学物質影響におけるエピジェネティック制御メカニズム研究について紹介を受け、エピジェネティック毒性研究の今後の進展について議論したい。本シンポジウムが契機となって、日本におけるエピジェネティック毒性研究が更なる発展を遂げることを期待する。