日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: S1-5
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エピジェネティクスから捉えた毒作用発現
破骨細胞分化におけるエピジェネティック制御
*今井 祐記延 珉榮
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抄録

破骨細胞は、造血幹細胞由来マクロファージ系細胞が、RANKLの刺激により複数の細胞が融合する事で分化する多核巨細胞である。中でも、NFATc1(Nuclear factor of activated T-cells, cytoplasmic 1)は破骨細胞分化の主要転写因子であり、それ自身の発現はRANKLによる刺激により誘導される。
 近年、転写因子群による遺伝子ネットワーク再構築の一端がヌクレオソーム構造を規定するエピジェネティック制御によって調節されると考えられている。しかしながら、NFATc1転写制御機構をはじめ、破骨細胞の分化や成熟におけるエピジェネティック制御機構は未解明である。
 そこで、我々は、RAW264細胞を用いた生化学的な手法により、破骨細胞におけるNFATc1の新たな相互作用因子群を探索することで、エピジェネティック制御を介した破骨細胞の分化制御機構を解明することにした。
 RAW264細胞から核抽出液を調整し、抗NFATc1抗体カラムを用いたアフィニティー精製の後、質量分析により、複数のNFATc1相互作用因子群を同定した。中でも、機能未知因子である‘OCAN (Osteoclastogenic Co-Activator for NFATc1)’ に着目した。OCANは既知SWI/SNF クロマチンリモデラー複合体の構成因子であるBrg1及びBaf proteinsと同時に同定され、新たなSWI/SNF クロマチンリモデラー複合体の構成因子として機能する可能性が考えられた。OCANの過剰発現でNFATc1転写活性の増加が、ノックダウンにより破骨細胞特異的な遺伝子の発現減少を認めたことから、OCANはNFATc1の新規コアクチべーターであることが示唆された。以上により、これまで不明であった破骨細胞分化におけるエピジェネティック制御機構において、OCANが NFATc1標的遺伝子上へのクロマチン構造変換複合体のリクルートを担う新規のエピジェネティック制御因子であることが期待される(Youn MY et al. 未発表データ)。骨代謝領域におけるエピジェネティック制御機構が明らかになる事で、骨代謝の生理学的理解と同時に、骨粗鬆症や関節リウマチなどの骨吸収関連疾患の新規治療法開発の一助となることが期待される。

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© 2012 日本毒性学会
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