日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: S10-5
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重金属の毒性とその防御の分子メカニズム
メチル水銀毒性と細胞内蛋白質トラフィッキング
*黄 基旭
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抄録
中枢神経障害を主症状とする水俣病は、メチル水銀による環境汚染が原因となって引き起こされた公害病として世界的に良く知られている。近年、「魚介類を介してメチル水銀を比較的多く摂取した女性から生まれた子供に運動や精神の発達障害が認められる」との疫学調査結果が発表されるなど、メチル水銀による健康影響が世界的に懸念されている。しかし、メチル水銀による毒性発現機構およびそれに対する生体の防御機構は未だほとんど解明されていない。
 これまでに我々は、メチル水銀による毒性発現機構を解明するために、ヒトと同じ真核細胞生物であり遺伝子産物の多くが機能的にヒトと共通している酵母を用いて、メチル水銀に対する細胞の感受性に影響を与える遺伝子群の検索を行った。その結果、multivesicular body (MVB)ソーティングシステムに関わる複数の蛋白質がメチル水銀の細胞毒性を増強する作用を有することを見出した。MVBソーティングシステムは、エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれた膜蛋白質(受容体やトランスポーター)などを、液胞(リソソーム)に運んで分解するか細胞膜に戻して再利用するかを選別する重要な細胞内機構の一つと考えられている。これまでの検討により、MVBソーティングシステムを介してエンドソーム内に取り込まれた後に液胞まで輸送される蛋白質の中にメチル水銀毒性増強に関わる因子が含まれている可能性が示唆されている。MVBソーティングシステムとメチル水銀毒性との関係について検討された例はなく、我々が見出した「エンドソームを介した液胞での蛋白質分解系に関わる因子がメチル水銀の細胞毒性を増強する」という知見は、これまでに知られていない蛋白質分解を介した全く新しいメチル水銀毒性発現機構の存在を示唆するものである。今回は、MVBソーティングシステムを介して液胞に運ばれ、かつ、メチル水銀毒性を増強させる蛋白質の同定、およびメチル水銀毒性発現におけるMVBソーティングシステムの役割に関する我々の最近の知見を紹介する。
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© 2012 日本毒性学会
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