日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: S15-4
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放射線被曝と毒性学における課題・・福島原発問題を契機として
現存被ばく状況での公衆衛生の課題
*山口 一郎
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抄録

住んでいる地域や周辺の環境や個人差にもよるかもしれないが、福島第一原発事故後、私たちは放射線リスクとの付き合いに対してより意識的にならざるを得なくなってしまった。リスクとどう付き合うかは、どうバランスを取るかに他ならない。バランスを取って考えるというのはスローガンとしては単純かもしれない。しかし、それを適用するのは容易ではない。ごくわずかではあっても、もしかしたらもたらされるかもしれない子供への放射線リスクと地場産業の復興をどう考えるがよいだろうか?子供への放射線リスクを小さくするための被災地での様々な制約は子供の成長にとって何らかの不利益をもたらさないだろうかという懸念にどう答えるのがよいだろうか?
 このようなジレンマは、原発事故後の対応を巡る不信も相まって解決は容易ではないと思われる。このため、リスク管理は客観的な妥当性だけでなく、人々の気持ちに添うことが求められよう。そもそも、何らかの価値判断に基づく意志決定では、主観的な価値判断が避けられない。主観的健康度を重視すると、各人が人生で求める価値や避けるべき不利益として、何を優先させるのかを考慮することが求められることになるだろう。さらに、人々の価値判断の多様性を考慮し、最適化されたと考えられる分析結果が示されても、人々がそれに納得するとは限らない。決定の経過が納得されることも必要である。このように、リスク科学的なアプローチで最適化を目指す場合でも、客観的なデータに基づく意志決定だけではなく、人々の合意が得られるような社会的な要因の考慮が求められる。いずれにしても、人々の気持ちに添った対策を考える上でも、合意形成が重要であり、この困難を解決するために毒性学関係者の貢献が求められるのではないだろうか。

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© 2012 日本毒性学会
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