日本毒性学会学術年会
第40回日本毒性学会学術年会
セッションID: S13-6
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シンポジウム 13 DOHaD (Developmental Origins of Health and Disease):後発的に顕在化する発達期の影響
C3Hマウスへの胎児期無機ヒ素曝露によるF1およびF2世代でのHa-ras変異をもった腫瘍の増加
*野原 恵子
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抄録
地質由来の無機ヒ素が混入した水を飲用することによる慢性ヒ素中毒が,東南アジアをはじめとする国々で発生し,皮膚疾患や発癌などの健康被害をもたらしている。近年では,胎児・乳児期のヒ素曝露による癌の増加も報告されている。
ヒ素による発癌増加のモデルとして,自然発癌がみられる系統であるC3Hマウスの妊娠中の母親に無機ヒ素を投与すると,生まれた雄の仔が74週令で対照群と比較して高率に肝癌を発症することが報告されている。私たちはこの実験系において,ヒ素による後発的な肝癌増加の機序,および継世代影響に関して検討を行っている。
その結果,胎児期ヒ素曝露を受けたF1雄の肝臓では,1)トリグリセリドの増加傾向と酸化ストレス誘導性遺伝子HO-1 の発現増加が成長後に起こってくること,および2)コドン61番にC to A変異(C61A)が入り活性化した癌遺伝子Ha-rasをもつ腫瘍の発生率が増加すること,を明らかにした。C to A変異は酸化DNA損傷の生成から誘導されることが知られている。すなわち以上の結果は,胎児期ヒ素曝露が肝臓での後発的な酸化ストレス増加を介してHa-rasに変異を誘導し,癌を促進する可能性を示した。
さらに,3)胎児期ヒ素曝露を受けたF1雄雌を交配して得たF2雄マウスの肝臓においても,C61A Ha-ras変異をもった腫瘍が増加することをみいだした。このHa-ras変異は正常組織では検出されず,体細胞突然変異であることが示された。
ヒ素は比較的速やかに代謝されることから,上記のF1マウスに関する知見は,発達期の一過的な化学物質曝露が後発的な悪影響をもたらすことを示している。さらに,F2における体細胞突然変異増加の形質は,F1の生殖細胞から伝えられており,エピジェネティックな機序の関与が考えられる。今後はこのような後発影響・継世代影響を考慮した研究が必要である。
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© 2013 日本毒性学会
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