日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: S3-2
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シンポジウム 3 In vitro 毒性試験としてのiPS 細胞利用の有用性と留意点
ヒト多能性幹細胞の品質管理と精度管理
*古江(楠田) 美保
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抄録

 ヒト胚性幹(ES)細胞や人工多能性幹(iPS)細胞などのヒト多能性幹細胞(hPS)は、自己複製能と多分化能を兼ね備えており、細胞治療のみならず、これらhPS由来分化細胞を原材料とする製剤やワクチン作成、薬効・毒性評価など創薬分野への応用にも広く期待されている。
 一般的にhPS細胞は不活性化したマウス胎児組織由来線維芽細胞をフィーダー細胞や代替血清などを含む培地を用いて維持培養されている。近年、フィーダーを用いない無血清培地も増えているが、すべての株に対応できるかは不明であり、組成が公開されておらず科学研究に使用しにくい場合も多い。一方、次々と分化プロトコールが発表されているが、他施設で再現できないことも多い。また、株間により細胞特性も分化傾向も異なるため、細胞そのものを標準化するのは難しい。さらに、hPS細胞の長期培養によるゲノム不安定性も報告されており、研究施設又は実験者が変わることによるhPS細胞の品質変動は大きな問題の一つとなっている。hPS細胞の品質には、ピペッティングなど単純な作業を誤ることがhPS細胞の未分化状態に影響を及ぼすことは経験上知られている。これまであまり注意が払われてこなかった細胞培養そのものについての標準化も重要である。
 hPS細胞は様々な可能性を持っている一方で、その扱いが難しく、未分化状態を表す絶対的マーカーも発見されていない。hPS細胞の品質評価法の開発とその標準値の設定、技術の標準化は急務である。日本は、hPS細胞作製技術や分化誘導技術開発では国際的にリードしている一方、ヒトES細胞研究による先行技術や経験に基づく基盤技術やノウハウの蓄積が乏しいため、英米に比べてヒト幹細胞の産業応用のための環境整備が遅れている。現在精力的に行われている幹細胞を用いた基礎研究の成果等が広く実用化されるためには、hPS細胞の品質の安定性と品質評価の精度向上が課題である。

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© 2014 日本毒性学会
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