抄録
【目的】異物応答性核内受容体PXRは、肝臓の主要な生理機能の調節を担う低分子応答性転写因子である。古くから、ヒトPXR活性化物質の肝臓での免疫抑制作用が知られており、PXRと免疫応答の関連を示す知見が集積されつつある。当研究室では最近コンカナバリンA (Con A) 自己免疫性肝炎マウスにおいて、マウスPXR活性化物質であるPCNの投与により、肝障害が軽減されることを見出した。そこで本研究では、PXR活性化による抗炎症作用の機序解明を目的とし、Con Aモデルとは障害機序が異なる四塩化炭素(CCl4)誘発性肝障害マウスにおけるPCNの作用について解析した。また、PXRと多くの共通した標的遺伝子の転写活性に関わる核内受容体CARの活性化物質であるTCPOBOPを併用し、PXR活性化時との異同を解析した。
【方法】10週齢の雄性C57BL/6Nマウスに溶媒(コーン油)、PCN (100 mg/kg) またはTCPOBOP (3 mg/kg) を腹腔内投与した。6時間後にCCl4 (0.5 mL/kg) を腹腔内投与し、その24時間後に屠殺して肝臓および血液を採取し、血漿ALT値および各種炎症関連遺伝子の肝mRNAレベルを常法により測定した。
【結果および考察】CCl4投与により血漿ALT値は有意に増加し、その増加はPCN前投与により有意に抑制され、TCPOBOP投与によっても抑制傾向が認められた。また、炎症性サイトカインやケモカインなどの炎症関連遺伝子の肝mRNAレベルを測定したところ、血漿ALT値と同様に、CCl4投与で顕著に増加し、PCNまたはTCPOBOPの投与によりその増加は抑制された。この変動は、特に炎症性サイトカインIL-1βおよびIL-6、ケモカインCCL2/MCP-1およびCXCL2/MIP-2において顕著に見られ、PCNやTCPOBOPによる肝障害軽減とこれら遺伝子の発現変動の関連が示唆された。以上の結果から、PXR活性化物質PCNの投与はCon A誘発性肝障害モデルだけでなく四塩化炭素誘発性肝障害モデルにおいても同様に抗炎症作用を示すこと、また、PXRと類似した機能を有するCARの活性化によっても肝障害が軽減される可能性が示された。