抄録
死因の第一位をしめる高血圧の発症要因には遺伝的背景のみならず環境要因が重要であることが知られており、これらが複雑に絡み合うモザイクモデルが提唱されて久しい。高血圧症のうちとくに塩分摂取により血圧が上昇する食塩感受性高血圧症は狭心症、心筋梗塞、脳卒中などを発症しやすく生命予後が不良である。古くから交感神経活動や胎生期の母体内のストレスが成人後の食塩感受性高血圧に関与することが動物実験や疫学調査から知られていた。そこで、我々はカテコラミン毒性やストレス応答ホルモンによる遺伝子変化と食塩感受性高血圧について、エピゲノム調節の面から検討を加えた。β2受容体刺激、あるいは母体内でのステロイドホルモン暴露は腎臓、脳においてヒストンアセチル化やDNAメチル化といったエピゲノム変化を生じることを明らかにした。カテコラミン刺激はヒストン脱アセチル化抑制によりグルココルチコイド受容体のDNAへの結合が亢進した。その結果として腎臓のナトリウムチャンネルの活性化を引き起こし食塩感受性高血圧を発症させる。一方、胎生期のステロイド暴露はDNAメチル化を介して脳内レニンアンジオテンシン系の亢進を引き起こし、成人後に食塩感受性高血圧症を発症させうることを明らかにしてきた。これらの変化を診断、治療ターゲットにすることは今後の新たな高血圧の診断、治療となりうる。本シンポジウムでは生活習慣病の発症におけるエピゲノム調節と環境因子の関連について我々の最近のデータを中心にdiscussionしたい。