抄録
近年のバイオ医薬品開発の活性化に伴い、免疫複合体沈着に関連する腎糸球体障害は重要なリスク要因と認識されている。現在、尿中のアルブミンや総タンパクが尿細管および糸球体障害の診断マーカーとして汎用されているが、非臨床または臨床試験において糸球体障害の発生を早期段階からモニターできるような、より感受性および特異性の高いバイオマーカーの開発が求められている。
ラット受動性Heymann腎炎(PHN)モデルは、C5b-9が結合した免疫複合体の糸球体上皮下への沈着を特徴とし、重度のタンパク尿を呈する膜性腎障害モデルである。今回、市販されているラットC5b-9血中濃度測定用ELISAキットを用い、ザイモザンにより刺激したラット血清をC5b-9陽性サンプルとしてバリデーションを行い、ラットPHNモデルから得られた尿サンプル中のC5b-9濃度を検討した。PHNモデルは抗ラット腎皮質抗原(Fx1A)ヒツジ抗体(n=10/評価時点)またはその溶媒(n=4)を雄SD系ラットに投与することで作製し、試験3、6、9および16日に夜間尿を採取した後、剖検を実施した。
バリデーション試験では検量線範囲内での直線性、試験内および試験間精度、凍結融解および保存安定性はいずれも良好であった。さらに、PHNモデルでは正常(溶媒投与)ラットと比較して尿中C5b-9濃度に明確な変化が認められた。即ち、正常ラットでは定量限界未満であったのに対し、PHN群では試験3日から試験9日にかけ顕著な増加が認められた。また、免疫組織化学的検討により糸球体のC5b-9沈着を検討したところ、尿中C5b-9濃度の上昇が認められた個体のほぼ全例でC5b-9沈着が認められ(特異度>95%)、感度は試験3日が最も高かった。
今回の検討から、尿中C5b-9濃度の測定は補体活性化を伴う免疫複合体沈着に関連した糸球体障害に対する信頼性の高い早期バイオマーカーになり得ることが、ラットにおいて示された。