抄録
医薬品、農薬、工業化学物質などの様々な化学物質の安全性評価は主に動物試験の結果を基に行われているが、コストや動物愛護の観点からインビトロ及びインシリコ手法による動物試験代替法の開発が強く求められている。しかし、全身毒性を評価する重要な試験である反復投与毒性試験については代替法の開発は全く進んでいない。反復投与毒性試験の代替法開発が困難な大きな理由として、標的臓器が多様で機序が複雑なことに加えて、試験系を構築するために必要な化学物質情報の不足があると考えている。一般に、ある臓器毒性を予測するインビトロ試験やインシリコ手法を開発するには、手法構築とその評価・検証のために、その毒性を発現する化合物(陽性対照)と発現しない化合物(陰性対照)を学習用化合物として多数必要とする。したがって、ラットの反復投与毒性を予測するためには、多数の化学物質のラット反復投与毒性試験結果が必要であるが、高品質の反復投与毒性試験情報を搭載した公的データベースは世界的に限られている。また、医薬品による肝障害を予測するためにはヒトでの肝毒性発現の有無が明確な多数の医薬品が必要となる。米国FDAなどによりヒト臨床での有害作用報告がデータベース化されているが、背景情報が不足していること、肝毒性を起こさない医薬品の情報はほとんどないことなどの問題がある。これらのことから演者らは毒性試験データベースの構築や既存のデータベースを利用した毒性予測評価系の開発に取り組んでいる。本講演では、演者らの取り組みを紹介し、インビトロ・インシリコ手法による肝毒性予測の現状と課題について議論したい。