日本毒性学会学術年会
第44回日本毒性学会学術年会
セッションID: S1-4
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シンポジウム1 インビトロ・インシリコ手法による全身毒性予測評価の現状と課題
統計的学習による肝毒性の判別分析
*竹下 潤一
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抄録
 化学物質の有害性評価において、動物実験代替法の開発が国際的に求められている。しかし、反復投与毒性試験に関してはその開発はほとんど進んでいない。そこで、ラットのインビボデータベースと化学物質の分子記述子を用いてラット肝毒性を判別する統計モデルの構築を試みた。しかし、克服すべき問題点が2つあった。(1)モデルの説明変数の候補である分子記述子の数が学習用化合物の数よりも多い。(2)毒性を示す化合物数が、毒性を示さない化合物数に比べて少ない(学習データが不均衡データである)。そこで本研究では、主要な肝毒性マーカーである血中ALTレベルの上昇を例とし、この2つの問題点を克服した判別モデルを構築する方法を提案した。有害性評価支援システム統合プラットフォーム(HESS)に搭載されているラット反復投与毒性試験データより、28日間試験結果が報告されている176化合物を抽出した。次に、ALT上昇について1000 mg/kg体重/day未満のLOELが報告されている化合物に「Strong」、それ以外の化合物に「Weak」とラベル付けを行った。一方、すべての化合物の分子記述子をDRAGON6により計算した。そして、本研究ではロジスティクス回帰モデルを用いて、判別モデルを構築した。(1)の問題を解決するために、非階層的クラスタリング手法のひとつであるk-medoids法を用いることで、統計的に代表的な説明変数の選択を行った。(2)の問題を解決するために、SMOTEアルゴリズムを適用することで、毒性を示す化合物群のサンプルサイズを人工的に増やした。その結果、説明変数が10個以下のシンプルな判別モデルを構築することができた。また、その予測精度は75%以上であった。本研究により、統計的工夫により、分子記述子の情報からのみであってもある程度高精度な反復投与毒性の判別モデルを構築できることが示された。
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© 2017 日本毒性学会
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