Keap1はユビキチンE3リガーゼのアダプター分子であり、転写因子Nrf2の活性を抑制する。我々は、ゲノム編集によりKeap1欠失ラットの作出を試み、Keap1エクソン4を完全欠失(K0)あるいは部分欠失した変異体ラット2ラインを得て、それらの個体解析を行った。K0ラットはメンデル則に従って出生したが、出生後1日齢以内に全例死亡した。0日齢のK0ラットは血中ビリルビンや胆道系マーカーであるアルカリホスファターゼ(ALP)が高く、黄疸を呈した。肝臓の組織解析から、0日齢のK0ラットでは肝臓の組織構築の異常がみられた。門脈域に存在するべき胆管様構造が不明瞭であり、肝細胞索が不規則化していた。本病態がNrf2の過剰に起因するのか否かを調べるために、Keap1-/-::Nrf2+/-(K0N1)およびKeap1-/-::Nrf2-/-(K0N0)ラットを作出した。0日齢のK0ラット肝臓では確かにKeap1 mRNAの発現が消失し、Keap1は欠失していた。さらに、Nrf2の標的遺伝子の発現が上昇しており、その発現上昇はK0N1、K0N0ラットにおいてNrf2を欠失することで段階的に減少した。すべてのK0N1ラットは出生直後の致死を回避したが、成長遅延がみられ、一部は黄疸を呈して生後10日齢までに死亡する個体もあった。20日齢では、細胆管の拡大、胆汁様物質の組織内貯留、門脈域における胆管増生がみられた。さらに8週齢になると、顕著な肝肥大に伴い、肝細胞の空胞変性や好酸体の出現がみられ、血中肝傷害マーカーが上昇した。一方、K0N0ラットはK0N1ラットのような肝傷害はみられず、野生型ラットと同様に成長した。以上より、Keap1欠失によるNrf2の活性化は重篤な肝傷害を引き起こすことが明らかとなった。