日本毒性学会学術年会
第46回日本毒性学会学術年会
セッションID: S26-1
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シンポジウム 26
「シグナル毒性」の概念と子どもの毒性学
*菅野 純
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抄録

 1962年のレーチェル・カールソンの「沈黙の春」は、DDTなどの影響は、単なる肝毒性ではなく、生殖、免疫、神経などの複雑な毒性であることを示唆し、次のテオ・コルボーンらの「失われし未来」は、エストロジェン系とアンドロジェン系が中心であるが、受容体を介する影響としての毒性を提示することとなった。

 基礎生物学では非単調性の用量作用関係を目撃することは日常茶飯事であったが、当時の毒性学者にとって、それは単調関数でなければならなかった。それでも、論議の結果、ある条件下では、野生生物やおそらく人においても、非単調性の用量作用関係が低用量域で認められる蓋然性が許容されるようになった。そして、いわゆる「低用量問題」として捉えられ始めていた現象の主なものが、中枢制御機構を介する、即ち、子ども期の中枢神経系に対するシグナル毒性として理解される事となった。従来の毒性が「外来性化学物質が標的分子に作用して機能障害や細胞死を引き起こす」のに対し、シグナル毒性は「外来性化学物質が受容体等に作用し、標的細胞・組織に間違ったシグナルを伝える結果、生じる有害事象」と定義できよう。その中で不可逆的な影響が残るのは、シグナルをその発生発達成熟に「臨界期」もって使用している子ども期の中枢神経系、免疫系、内分泌系、という事になる。1981年のノーベル医学生理学賞研究、HubelとWieselのサル視覚野形成に関わる実験がこの「シグナル毒性」の極型であろう。国際的に、この様な毒性を評価する体系の整備が進行中である。

 シグナル毒性の立場から子ども期の中枢神経系を考察すれば、不可逆的影響を誘発し得る外来性化学物質の種類は、そこで様々な臨界期をもって使われるシグナル系の数を下回らないという事である。 本シンポジウムでは、中枢に対するシグナル毒性の検証、解析について様々な分野から最新の知見をご紹介いただく。

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