医薬品による予期せぬ副作用を回避するために、その開発過程のおいて十分な安全性評価を実施することが不可欠である。医薬品による副作用のうち、薬物誘発性肝障害が数多くの医薬品で報告されていることから、精度の高い肝毒性予測技術の開発が急務である。そこで、近年、ヒトiPS細胞由来肝細胞を用いた肝毒性予測システムの構築が期待されている。我々は、これまでに、安全性評価システムに応用可能なヒトiPS細胞由来肝細胞を作製すべく、ヒトiPS細胞から肝細胞への分化誘導技術の開発を約10年に渡って実施してきた。独自開発した遺伝子導入技術や三次元培養技術、共培養技術、ゲノム編集技術などを駆使することにより、ヒト初代培養肝細胞に匹敵する薬物代謝機能をはじめとする肝機能を有するヒトiPS細胞由来肝細胞の作製に成功した。また、特殊な遺伝型(薬物代謝酵素CYP2D6のpoor metabolizerなど)を有する個人からヒトiPS細胞を樹立し、元の個人の遺伝情報を反映した安全性評価システムを構築できることを実証してきた。最近では、CRISPR-Cas9システムなどのゲノム編集技術を用いて、様々な薬物代謝酵素や薬物トランスポーターを欠損したヒトiPS細胞由来肝細胞を作製し、多様な遺伝型を有する集団での安全性評価に応用可能なヒトiPS細胞由来肝細胞パネルの構築に取り組んでいる。本発表では、我々の最新の研究成果を発表するとともに、ヒトiPS細胞由来肝細胞を用いた安全性評価システムの将来展望についても紹介したい。