主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
エピジェネティックな修飾は、胎児期や新生児期の環境により変化し、長期にわたり児の遺伝子発現に影響する。これらは一種の環境適応とも捉えられるが、結果として生じたエピゲノム変化が適切でなければ、将来の疾病素因となる可能性が懸念される。モデル生物を用いた様々な研究では、胎仔期の栄養環境に起因するエピゲノム変化が明確に示されている。一方ヒトでは、ゲノム多様性に加えてエピゲノム多様性が存在するため、真のエピゲノム変化を同定するのは容易ではない。
我々は、ヒトにおける「胎児期・新生児期環境によるエピゲノム変化」の検証を目的に、妊娠合併症を有する症例や早産児の生体試料を収集・解析した。これらの症例は、胎児期・新生児期に不適切な環境に曝露されているので、臍帯血や胎盤にエピゲノム変化(DNAメチル化値変化)が存在すると予想される。実際に我々の解析では、母体の妊娠中の体重増加量や妊娠糖尿病による児のDNAメチル化変化が観察されたが、これらの変化は必ずしも特定の遺伝子領域に集中するのではなく、ランダムに起こっていた。あるいは早産児の解析では、同一症例を経時的に追跡すると、妊娠週数・週齢に応じて生理的に変化するDNAメチル化部位が存在することがわかった。一部の症例では、これらの領域のDNAメチル化が出生後数週間経っても変化せず、「早産児の未熟な状態が遺残」していた。これらの多くは、発生・分化に関わる領域に集積しており、直ちに疾患の原因とならなくても、後年の代謝、神経、および精神障害を含むさまざまな疾患のリスクを潜在的に高めることが予測される。
本シンポジウムでは、これらの自験例を含め、ヒトで観察される環境によるエピゲノム変化について概説したい。