主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
早期臨床試験において被験者の安全確保のために入手可能な情報は限られている。特にFIH試験においては非臨床データのみに基づいて安全性の確保に努める必要がある。FIH試験の開始と施行にあたってはICH-M3ガイドライン、日本臨床薬理学会のチェックリスト等が存在しており、これらを参考に治験薬概要書(IB)に記載された非臨床試験のデータから安全性確保のための方策を試験計画に組み入れている。しかし、このIBは読み手にとって親切なものではないことが多い。2016年にフランスで生じたFIH試験における被験者死亡事例では、IBの非臨床部分の記載に図表の誤りや誤訳などが散見され、参考となるレベルのものではなかった等の例も知られている。多くの専門家が自らの専門分野について正しく記載することが、IBについては求められるのが当然ではあるが、専門的である故に淡々と事実が述べられるのみであり、重要なポイントの抽出が困難な場合がある。非臨床試験が外部機関で実施されたと思われる場合には、不必要なディテイルが何度も繰り返され、肝腎の所見が見つけにくいことも経験する。早期試験を実施する医師は、非臨床データをもとに、被験者への影響を推測し、安全性の向上に努力している。当初予測しなかった症状が出現したが、振り返ってみれば非臨床データにその兆しがみられたという経験談も耳にする。早期試験において非臨床データは極めて重要なものである。データを生で提示するのみでなく、人に投与する際に必要な情報としての伝達を望みたい。