多能性幹細胞や、生検サンプルを活用したプライマリ細胞などを活用し、ヒト器官に類似した組織体を生み出すオルガノイド研究が隆盛を極めている。即ち、ヒューマン・オルガノイドは解剖学的・機能的に生体内に存在する器官に近い特徴を示すことから、これまで研究対象とすることが困難であったヒトにおけるさまざまな生命現象に迫ることが可能となった。
これまでに、われわれは、ヒト多能性幹細胞を活用したオルガノイド研究において、さまざまな器官機能発現に必須となる、血管、間質、免疫、周辺臓器など「複雑性」を付与する技術を次々と開発してきた(Nature, 2017: Nature, 2019: Cell Metabolism, 2019:Nature Protocols, 2021)。さらに近年では、多様の人間のばらつきを理解するため、遺伝型(ゲノム)と表現型(フェノーム)をリンクさせた独自のオルガノイド解析系によって、薬剤性肝障害や非アルコール性脂肪性肝炎などの個性に迫ることが可能となりつつある(Nature Medicine, 2020:Gastroenterology, 2021)。
本講演では、ヒト肝臓を対象としたオルガノイドを事例に、「どう創るか?」から「どう使うか?」へと力点が移りつつ有る第4世代のOrganoid4.0研究が指向する未来を考察したい。すなわち、いままで研究対象とすることが困難であった高度なヒト臓器モデルの樹立を通じ薬学・医学への実質的還元を目指す新潮流、オルガノイド医学(Organoid Medicine)研究の最前線について具体事例を交えて紹介する。