日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: S1-1
会議情報

シンポジウム1
内在性DNAによるミクログリア活性化を介したレット症候群発症の可能性
中嶋 秀行*中島 欽一
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 レット症候群 (RTT) は自閉症傾向や精神発達遅滞などを示す進行性の広汎性発達障害であり、そのほとんどがX染色体上のmethyl-CpG binding protein 2 (MECP2) 遺伝子変異が原因で発症する。これまで、ニューロンにおけるMeCP2の機能異常がRTT発症の原因と考えられてきたが、近年、非ニューロン細胞の機能異常もRTT発症の一因である可能性が示唆されつつある。これに関連して、MeCP2欠損RTTモデルマウスにおいて、脳内免疫担当細胞であるミクログリアの活性化が報告されており、実際、我々が行ったMeCP2欠損マウス海馬におけるシングルセルRNA-Seq解析においても、活性化マーカー遺伝子の発現が亢進したミクログリア数の増加が見られている。しかしMeCP2欠損マウスの脳内においてどのようにしてミクログリアが活性化されているのかは不明であった。我々は以前に、MeCP2欠損マウス脳において、レトロトランポゾンLINE1(L1)の発現の亢進とその逆転写産物(cDNA)のゲノムへの挿入(転移)が増加していること発見した。また、内在性DNAがDNA認識性Toll様受容体9(TLR9)を介して海馬ミクログリアを活性できることも見出していたことから、L1cDNA―TLR9―ミクログリア活性化経路がRTT発症に関与しているのではないかと考えた。そこでMeCP2欠損マウスとTLR9欠損マウスを交配させたところ、MeCP2欠損/TLRヘテロ欠損マウスでは、MeCP2単独欠損マウスと比較して、ミクログリア活性化の抑制、明らかな寿命延長、RTT病態重症度の軽減が見られた。また、同様の改善効果はミクログリア活性化阻害剤の投与によっても観察された。したがって、これらの結果は内在性DNA―TLR9―ミクログリア活性化が、RTT病態発症に関与していることを示唆していると考えられる。

著者関連情報
© 2021 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top