我々の身の周りには様々なナノマテリアルが用いられているが、体内での毒性に関しては不明な点が多い。特に、ナノマテリアルの吸入暴露による肺を中心とした免疫反応に関しては、ナノマテリアルの種類、形状、暴露方法や時間などによって大きくその反応性が異なることが知られている。本研究では、分散性に優れたTaquann処理を施した多層カーボンナノチューブ(T-CNT)を用いて、直噴式全身吸入装置による正常マウスへの吸入暴露後の肺を中心とした詳細な免疫反応に加え、線維化に至る慢性影響について免疫学的あるいは病理学的解析による検討を加えた。
4週間連続によるT-CNTの吸入暴露後、1ヶ月、2ヶ月、6ヶ月および12ヶ月での肺の病理学的変化を検討すると、経時的に肺胞壁あるいは間質に線維化が亢進していることが判明した。また、肺胞洗浄液(BALF)中の肺胞マクロファージの細胞表面マーカーを用いたフローサイトメータによる解析で、暴露直後では肺胞マクロファージの細胞数は対照群に比較して有意に減少するが、経時的に細胞数が回復してくることが明らかになったが、T-CNT暴露によってCD11bhighの異常マクロファージ分画が増加することが判明した。また、肺組織における線維化に関わる遺伝子群を網羅的に解析したところ、Matrix metalloproteinase-12 (MMP12)遺伝子が上昇することが明らかになった。さらに、in vitroの実験でもT-CNTの刺激によってマクロファージから分泌されるMMP12を介した線維芽細胞の増生、コラーゲン合成の有意な増進が認められるとともに、MMP12の発現調節にNF-κBの活性が関与している可能性が示された。
以上のことから、ナノマテリアルの吸入暴露によって肺胞マクロファージのMMP12を介した慢性影響の分子メカニズムが明らかになった。