日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: S3-1
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シンポジウム3
ゲノム不安定性を意識した次世代遺伝毒性研究を始めよう
*三島 雅之
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抄録

Ames試験の発明以来、長いあいだ遺伝毒性研究はAmes試験を中心に回転してきた。Ames試験の結果に基づく遺伝毒性発がん物質/非遺伝毒性発がん物質の区分は、発がんに至る過程をイニシエーション/プロモーション/プログレションといったステージに分類し、遺伝毒性はイニシエーションの研究であるとの、毒性学者の共通概念形成に一役買った。この共通概念が、遺伝毒性研究の広がりを制限し、化学物質による発がんリスクのより深い理解を阻害してきたかもしれない。非遺伝毒性発がん物質が誘発したがんには突然変異がないということは考えられない。いくつかのがんでは、DNAメチル化、ヒストン修飾、クロマチンのコンフォメーション変化など、エピジェネティック因子の変化が、突然変異誘発の原因になっていることが示唆されている。プロモーションやプログレッションのステージに相当する変化も、結局は遺伝子の突然変異に起因するものであり、いかに多くの突然変異蓄積があるかという単純な要因が発がん性を決定している可能性が高い。こうした変化はDNA障害と異なり、遺伝毒性試験の標準的な組み合わせで検出するのが困難である。変異原物質は極低レベルでヒト曝露を管理する必要があるため、微量の不純物も含めて遺伝毒性評価が必要であるが、人が創造した化学物質の種類が急激に増加しており、それらの副生成物も含めた新規化学物質の遺伝毒性試験が追い付かない。こうした現実を踏まえ、毒性学者は遺伝毒性についての考え方を転換する必要に迫られている。Ames試験の代替としてのQSARに加えて、遺伝毒性をDNA障害に限定することなく、ゲノム不安定性の問題とみなして取り組む次世代の遺伝毒性研究が必要だろう。ここでは、毒性学者がこれからの変異原研究にどう取り組んでいくべきか考える。

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