主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
ゲノム編集の本質は、標的部位のDNA二本鎖切断にある。ゲノム編集の毒性としては、主に類似配列の切断による“オフターゲット毒性”が注目されているが、遺伝毒性の観点からはDNA二本鎖切断そのものの安全性、すなわち“オンターゲット毒性”が重要である。
放射線の例のように、DNA二本鎖切断は染色体異常を引き起こしやすいと考えられるが、昨年CRISPR-Cas9によるゲノム編集で誘発される小核等の染色体異常がChromothripsisを引き起こすことが報告された。Chromothripsisは一度のイベントで大規模なゲノム不安定性を引き起こし、癌化や遺伝的疾患の直接の原因となることから、ゲノム編集の“オンターゲット毒性”として注目を集めた。我々は、ゲノム編集により異なる染色体上の2か所を切断することにより、切断した遺伝子間での融合遺伝子(染色体転座)を人工的に合成することを試みているが、この過程で起こるゲノム編集による染色体異常誘発性に関して、小核試験及びクロモソームペインティングによる染色体解析により検討を行った。
HEK293T細胞を用い、2番染色体上のALK遺伝子と、7番染色体上のMETまたはSMO遺伝子間の転座融合遺伝子を作製するため、それぞれの遺伝子の特定箇所を切断するsgRNA発現ベクターを設計し、Cas9発現ベクターと一緒にトランスフェクションした。
ALK/MET及びALK/SMOとも、ゲノム編集直後の細胞のクロモソームペインティング解析により、数パーセント程度目的とする染色体転座を観察するとともに、それ以上の頻度で、当該染色体切断点と推定される部位での染色体切断及び染色分体切断が観察された。一方、同様に小核誘発に関しても検討を行ったところ、多数の小核が観察されたが、これは使用したベクタープラスミド由来のアーティファクトであることが明らかとなった。そこで、小核誘発に関しては、プラスミドを用いず、Cas9タンパク質とsgRNAの複合体をトランスフェクションする方法を用いた検討を行っている。
今後、これらの異常がchromothripsisを誘発する可能性に関して検討を行う予定である。