日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: S9-4
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シンポジウム9
死の谷を流れるサイトカインの川-臨床におけるサイトカイン放出症候群(CRS)の事例と非臨床における評価法の限界-
*仁平 開人
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抄録

医薬品開発においてヒトでの安全性リスクの評価は重要であり、非臨床安全性試験はその役割を担っている。しかし、現状の非臨床試験による安全性リスクの予測は決して十分とは言えず、非臨床と臨床の間にはいわば死の谷(Death Valley)が存在する。

サイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome:CRS)は、サイトカインの放出によって引き起こされる発熱、頻呼吸、頭痛、頻脈、低血圧、皮疹、低酸素症などの種々の症状の総称である。抗体医薬品をはじめとするバイオテクノロジー応用医薬品の投与後にしばしば認められるほか、近年はキメラ抗原受容体T細胞(chimeric antigen receptor T cell:CAR-T)療法におけるT細胞の移入後や、COVID-19感染の関連症状としても認められる。

重篤な場合はサイトカインストームと呼ばれる致死的な状態に陥ることもあるため、CRS誘発リスクを予測し、未然に回避・予防することは医薬品開発において重要な課題である。

しかし、標的分子のわずかなアミノ酸配列の違いによって生じる薬剤の標的への結合力や活性、下流シグナルに対する感受性及び免疫システム自体の種差により、通常の非臨床試験の中でヒトにおけるCRSの発生リスクを見積もることは容易ではない。

いわば、非臨床と臨床の間に存在する死の谷は埋まるどころか、サイトカインという濁流でその溝はますます広がっているとすら考えられる。

本発表では、臨床試験においてCRSが認められた当社抗体医薬品の事例について、その非臨床における評価の取り組みを含めて紹介する。今日の予測法の限界とそれを乗り越えるための試みについて、本事例をもとに議論したい。

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