日本毒性学会学術年会
第51回日本毒性学会学術年会
セッションID: S11-5
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シンポジウム11: 免疫毒性学から観たワクチン学
ワクチンアジュバントの免疫毒性と有効性を切り分けるサイエンスとデザイン
*石井 健
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抄録

新型コロナウイルスによるパンデミックは新興感染症に対する診断、治療、予防にかかわる医療の革命を引き起こした。ワクチンのサイエンスとデザインにおいてもmRNAワクチンが一年以内に実用化され、感染症以外の疾患に対する治療、予防に対するワクチン療法、免疫制御方法の新しい考え方、対策へのイノベーションの地殻変動が進んでいる。ワクチンサイエンスでは抗原、デリバリーシステム、アジュバントの3つの必須要素が他の領域の研究者、技術を巻き込み進化し、デザインへの大きな影響を及ぼしている。特に注目すべきはいわゆる抗原特異的な免疫反応に加え、訓練免疫や自然免疫記憶といった新しい免疫学のコンセプトとアジュバントの重要性があげられる。

 アジュバントの語源はラテン語で「助ける」を意味する"adjuvare"である。ワクチンの効果(免疫原性)を高める目的で、ワクチンと一緒に投与される物質(因子)の総称である。アジュバントの研究開発には90年以上の歴史があり、その実際のメカニズムは長い間免疫学的に解明されておらず、「免疫学者の汚い秘密」という皮肉も有名であった。しかし、近年の免疫学の進歩により、革新的な科学的アプローチによるアジュバントの開発が可能となり、次世代アジュバントの開発競争が世界中で繰り広げられている。

 特に近年、アジュバントのみでの単剤での予防薬、治療薬としての展開が盛んになってきている。TLRリガンドや他の自然免疫活性物質(STINGリガンドなど)の予防投与(Prophylaxis)によりウイルスやがんに対して強い生体防御免疫を誘導することが示され、そのメカニズムとして訓練免疫(Trained Immunity)や他の免疫応答が重要な役割を担うことが明らかになりつつある。時間があれば、日本におけるワクチンや免疫療法のためのアジュバントの臨床開発や、グローバルに行われているワクチン科学のアウトリーチ活動についてお話ししたい。

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