東洋音楽研究
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田邊 尚雄
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1937 年 1 巻 1 号 p. 3

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抄録

『光は東方より』といふ諺があるが、西洋近代の燦然たる文化はもと東洋より輸入されたもので、それを長年月に渉つて蓄積發展せしめた結果、近代に至つて欄漫たる花を開き、豊熟せる果を實らせたものであつた。
然るに此の燦然たる西洋近代の文化も、今世紀に入つて漸く沈滞し、腐敗するの傾向を示すに至つた。それは物質文明の進歩が精神文化と併行せずして、恰かも登育し書したる身體が漸く老衰の域に達したると同じく、清鮮なる血液の注入なくば、遂に死滅の他なきに至つた。東方より出でたる太陽は今や正に西方に没せんとしつゝある。
鼓に於て今や世界は再び東方よりの光を翹望して居る。斯くして最近多くの西洋人は多大の努力を東洋文化の研究に致して居る。然しながら東洋の研究は東洋人の手によつでなされなければならぬ。今や東洋の輿望を擔ふ我が日本人は世界に率先して東洋文化の研究に共力を盡さなければならない。而かも文化を象徴するものは藝術であり、藝術の精華は音樂にある。實に音樂は丈化の生命である。即ち東洋文化の精髄は東洋音樂にあると言ふべきである。
鼓に於て我々同人は相集まつて東洋音樂學會なるものを設立し、凡ゆる方面より東洋音樂の眞髄を闡明して「東洋音樂學」なる一個の科學を獨立せしめ、以て新らしき世界文化に貢獻する所あらんと努力して居る。今共の文化事業の一として鼓に本誌を登刊すること、した、翼くは我々と志を岡ふする篤學好事の士の益々多くして、本學會の將來の愈々多幸ならんことを切望して止まない。
今〓誌創刊されんとするに當つて茲に一言を述べて以て序となす。

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