東洋音楽研究
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琉球列島の音楽における「アゲ」と「サゲ」-変形の様式化をめぐって-
ギラン マット
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2007 年 2007 巻 72 号 p. 1-22

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抄録

琉球列島の音楽には、同じ旋律が地域や流派ごとにヴァリアンテとして存在する。また、地域や流派によるヴァリアンテとともに、広く伝承されている演奏の中には、一つの地域、または流派の演奏において、ある一つの旋律に様々なヴァリエーションを付け加える技法も見受けられる。この地域の様々な音楽における演唱法や用語法の共通点の一つは、同じ節名で呼ばれる旋律において、「アゲ」や「サゲ」という用語で区別されるヴァリアンテが多数存在する事である。この演唱法は、無伴奏の仕事歌や儀礼の歌から、三線を伴奏楽器とする民謡や古典音楽に至るまで、様々なジャンルに見られ、また地元の演奏者や学者はこの演奏法に名称をつけ、意識的に区別している。
本稿では、琉球列島に伝承される幾つかの音楽ジャンルにおいて、音楽そのものや、音楽世界に使用される用語のありさまの二面から「アゲ・サゲ」の概念を考察する。琉球列島の音楽における「アゲ・サゲ」は、三線の調弦、旋律の出だし、旋律全体の高さ、声質、曲想、の五つの意味を持つが、最も多く見られる例は、「揚出し・下出し」という、旋律の出だしを「高音」から始めるバージョンと「低音」から始めるバージョンの対立である。この歌い方を通して、琉球音楽の楽曲が形成されるレベルを幾つか検討する。まず、個人レベルで歌い手が「自由に」出だしを変えることができ、この「自由」な歌い方は、幾つかの影響で様式化される。集団で歌う場合は、各グループが「アゲ」と「サゲ」を歌い、また地域で見ると地域毎に「アゲ」と「サゲ」によるヴァリアンテが見られる。最後は、固定化プロセスで、「アゲ」と「サゲ」のヴァリアンテが譜面上に個別に記譜されるプロセスがある。また、それらのヴァリアンテが独立した歌として認識されるプロセスが見られる。

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