東洋音楽研究
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精緻歌仔戯の音楽における様式の多様性
長嶺 亮子
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キーワード: 台湾, 精緻歌仔戯, 音楽様式
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2008 年 2008 巻 73 号 p. 77-96

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抄録

二十世紀初頭に台湾で成立した歌仔戲は、社会情勢の影響を受けながら発展を続け、一九九〇年代になると精緻歌仔戯とよばれるより洗練され舞台芸術化した新しいジャンルを確立した。これは、脚本や西洋音楽を含む他の芸術様式からの導入、また演目の創作過程における専門分業化などにより、それまで大概にして即興的で荒削りであった歌仔戯を精緻化し、芸術性を高めたものである。民間劇団の中で形成されたこの精緻歌仔戯は、台湾唯一の公立歌仔戯劇団である宜蘭県立蘭陽戯劇団においても積極的に取り組みが行なわれている。
公立劇団と民間劇団の作品では、程度の差はありながらもどちらも伝統的な歌仔戯の旋律である [七字調] や [都馬調] などを使用しており、またその用い方も従来の歌仔戯の音楽様式をある程度踏まえたものとなっている。しかし、新たに導入された面、すなわち新しく創作された楽曲の構造などにみられる精緻化の度合いは、公立劇団と民間劇団の社会的立場や運営方針の違いなどにより一様ではない。精緻歌仔戯の「精緻化」という概念自体が曖昧で、諸様式は厳密に確立していないが、それにも関わらず政府は精緻歌仔戯が台湾を代表するものであるとして、公立と民間を問わず推奨している。
集客や劇団の独自性を追求するために斬新さが強調された民間劇団の作品は、歌仔戯の「発展」の姿を提示する。その一方、観客動員を最優先にする必要のない公立劇団は、芸術的発展を模索しつつも伝統的な様式を重視した作品で劇団の活動理念である「伝統の継承」を示すのであり、これはそれまで「発展」が主体であった歌仔戯に対する新しい動きといえる。精緻歌仔戯の音楽の様式は多様であり、「精緻化」だけでなく伝統的なものと共存するが、その要因は台湾の伝統文化の継承と発展を同時に推し進める政策にあるといえよう。

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