2002 年 4 巻 4 号 p. 023-032
政府は鉄道経営の効率化と利用者保護との調和を目指して,鉄道事業に対する規制政策の基本的な枠組みを検討してきた.1998年には運輸政策審議会諮問16号への答申が出されたが,そこにおいては交通産業の成熟化,モード間競争の激化によって交通運輸分野における自然独占性が消失しつつあり,それ故に例えば鉄道事業においても政府規制(特に参入退出規制)の必要性が薄れていることが指摘されている.しかし,自然独占性の程度が,鉄道会社や路線によってどのように変化してきたのかについては,まだ十分な分析がなされていない.上記の答申にもある通り,自然独占性の濃淡によっては鉄道事業への規制は一律に行われるのではなく,各社ごとあるいは路線ごとに形成される市場の特性に応じて行われるべきとも考えられる.本研究は,企業別・路線別の規模の経済性を計測することで大手私鉄各社の直面する市場特性を客観的に把握し,もって現在進められている鉄道政策の方向性に対して評価・提言を行うことを目的としている.