高強度鋼の疲労限度は硬さの増加に伴い, 硬さとの比例関係を失いばらつきも大きくなる. ばね鋼はこのような疲労特性を示す典型的な材料である. 高強度鋼の疲労破壊の起点はすべり帯や粒界き裂ではなく, 一般に材料中に含まれる非金属介在物である.
この論文は, 非金属介在物と基地の硬さが疲労強度に与える影響を破壊力学により考察し, 高強度鋼の疲労強度の予測式を提案したものである. 疲労強度を支配する介在物の決定的な幾何的パラメータはその介在物を最大応力方向へ投影した面積の平方根 (〓area) であり, 決定的な基地組織のパラメータはビッカース硬さHvである. この予測方法を自動車用ばね鋼 (SUP12) の疲労限度の評価に適用した結果, 介在物の影響による疲労強度の低下の予測値が実験結果とよい一致を示した.