自動車の軽量化ニーズに対応するため, 巻ばねの高強度化が進められており, それに伴って塗装の防錆力向上が検討されている.
巻ばねの塗装方法の代表的な一つとしてアニオン電着塗装が挙げられるが, 防錆力を向上させるためには, 耐食性に優れるカチオン電着塗装に切り替えることが有効である.
しかしながら, アニオン電着塗装においては被塗物が陽極となるのに対し, カチオン電着塗装においては電気めっきと同様に被塗物が陰極となる. したがって, カチオンでは被塗物表面で水の電気分解による水素の発生があり, 水素脆性を起こすことが懸念されてきた.
そこで本報では, カチオンを巻ばねへ適用した場合の水素脆性について, 各種の水素量測定, 低速押曲げ破壊試験, 実際の巻ばねでの遅れ破壊試験を行い, その結果, カチオン電着塗装を行った巻ばねには水素の吸蔵現象は無く, 水素脆性も起こらないことを確認した.