Tropics
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原著論文
ザイール共和国力フジ・ビエガ国立公園におけるゴリラとチンパンジーの遊動様式と食物樹の分布密度
山極 寿一Kiswele KALEMEMwanga MILINGANYOKanyunyi BASABOSE
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1996 年 6 巻 1+2 号 p. 65-77

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抄録

ザイール国東部のカフジ・ビエガ国立公園は山地から低地へかけて連続的な植生が保存されており、ここに同所的に生息するゴリラとチンパンジーの生態学的調査が1987年以来続けられている。これまでに山地でも低地でも両種の類人猿がよく似た食性を示すにもかかわらず,山地ではチンパンジーの密度が非常に低いことが判明している。そこで1994年の乾季(6~9月)に人づけされた両種類人猿の集団を追跡して日々の遊動ルートを,直接観察,食痕,糞分析により食物メニューを調べた。また,8月にライン·トランセクト法によって樹木の構成と密度を調べ,20m × 5,000mのトランセクトに出現した胸高直径10 cm以上の木本種と果実や花のなり具合を記録した。一次林,二次林,湿地を含む植生帯に28科50種の樹木を記録したが,このうち20種のゴリラの食物樹と26種のチンパンジーの食物樹が含まれていた。二次林より一次林の方が食物樹種の多様性や密度が高く,食べられる果実をつけている樹種の合計密度も高かった。両種の類人猿とも密度の低い樹種の果実を好む傾向があり,これらの果樹が一次林と二次林に分かれて出現するため,彼らは毎日複数の植生帯を訪問しなければならないことが明らかになった。ゴリラはよくまとまった集団で,同じ場所を重複利用しないように,しかも毎日一次林を通るように広く遊動する。チンパンジーは小さなパーティで特定の一次林を重複利用し,ゴリラより狭い範囲を遊動する。おそらく,一次林が小さなパッチ状に広い二次林に散らばっているカフジの山地林の植生が,チンパンジーの低密度の主因となっており,両種類人猿の採食様式の違いが両種の採食競合を減らして同所的な共存を支えていると考えられる。

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© 1996 日本熱帯生態学会
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