芝草研究
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日本シバの形態と構造に関する研究I Zoysia Japonica Steud.について
本多 侔
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1989 年 17 巻 2 号 p. 121-144

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抄録

現在各種造園・運動施設・土木工事等に広く使用され, また日本各地に自生する、日本芝の最も基本的な種類と考えられるシバ (Zoysia japonica Steud.) を用いて, その分類, 品種改良, 栽培管理につながる基礎的資料を得るために, 植物体各部の外部形態並びに解剖学的にその組織構造を調べた。そのうち直接栽培に関係すると思われる主なる点について摘記すると、
1匍匐茎よりの発根は必ず節の部分より起る。その1節群 (極めて接近した3節より成る) よりの発根限度は平均3~4本であり, この根が中途より切断された場合には, その切口より改めて発根することはない。芝の植付時に, すでに各節群よりの発根数が, 限度に達している時には、その後の発根は直立茎の下部の節より行われるので, 活着及びその後の生長を促進するために, 目土入れは重要な意味を有する。
2発根の深さは, 土壌条件や管理条件, 植付後の年数などにより左右されるので一概には言えないが, 60cm位までに最も多く分布する。さらに植付後3年の芝生で140cmまでの測定値を得ており, シバの根は可成深く伸長する性質をもっている。
3匍匐茎の1節群には定芽が2個あるので, これより発生する直立茎数は最高2本に過ぎない。しかし直立茎の下部の節 (8~12節) に不定芽を形成させ, これより二次的に直.立茎を分けつさせることは可能であり, 適度の踏圧, 目土入れ, 刈込, 施肥などは, 密生した良い芝生をつくるのに有効な手段である。
4新しい匍匐茎は元の匍匐茎より直接分岐するのではなく, 最初は必ず直立茎として出発し, 生長の過程において匍匐茎に転換したものである。直立茎の節は規則正しい1節づつの集合であるが, 匍匐茎は極めて接近した3節づつの節を必ずもっていることで証明できる。
5茎の表皮, ことに匍匐茎の表皮, 内皮, 維管束の周囲には厚膜の器械組織が特に良く発達しているので, 摩擦や折曲げに対して, シバの植物体中で最も強い抵抗性をもっている。
6葉には上面に開いたY字形のモーター細胞の発達が著しく, 水分を失うと, この細胞は萎縮し, 容易に葉を巻くようになる。上面表皮には気孔の分布が多く, 表皮もうすいので, このような構造をもつことにより, 旱ばつに強い抵抗性が発揮される。
7葉の表面細胞のクチクラ化, 維管束の周囲及びその上下には, 厚膜細胞の発達が良いので, 踏圧などの外力に対する抵抗性が大きい。
8シバの東京附近での開花期は, 4月下旬~5月上旬頃で, この頃外頴の先端部は黒紫色となり, 芝生の外観を損ずるので, 採種を目的としない庭園などでは, 早目に刈込むことが肝要である。
9花粉はよく発芽し, 雌蕊の柱頭は羽毛状で授精に有効な構造であり, 稔実率も可成高い (稔実率88~95%) 。
10開花結実した直立茎は, 分蘖して来た茎部まで枯れ込むが, 直立茎のすべてが出穂することはないので, この枯れは目立たない。
11開花後1か月前後で, 外頴は黄白色となり完熟するが, 種子は間もなく自然落下を始める。
12種子の最外層の果皮, 種皮及びこれに密着する内外頴の存在は, 種子の発芽と密接な関係があり, 物理的, 化学的処理により発芽率を大幅に向上させることが出来る。

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