金沢大学は,サンタ・クローチェ教会主礼拝堂壁画アーニョロ・ガッディ作『聖十字架物語』(1380頃)の修復プロジェクトに携わった。このプロジェクトを契機に,『聖十字架物語』のフレスコ画の描写法に加え金属箔に覆われた漆喰や蜜蝋を主材料とした盛り上げによる工芸的装飾技法の解明に取り組み,オリジナルの技法に肉薄した。この工芸的技法の研究に引き続き,同時代の他のフレスコ画の技法に調査研究を拡大した。その結果,円光の技法に関して,多くは『聖十字架物語』と同じ技法で制作されていたものの,初期ルネサンス時代の巨匠,フラ・アンジェリコの『受胎告知』に施された円光は異質であった。本小論では,このフラ・アンジェリコの円光技法の特異性を明らかにするとともに,板絵テンペラの手法が応用されている可能性を説いた。さらにこの仮説を,復元実験を通して実証的に明らかにした。