嶋本昭三(1928–2013)は前衛美術グループ「具体美術協会」の中心メンバーとして活躍し,世界的に評価された美術家であった。本研究では,嶋本のさまざまな活動から,教育者としての姿に注目した。とりわけ彼の芸術教育活動のなかに一貫してみられる「アール・ブリュット」への関心に焦点を合わせ,アプローチを試みた。最初に新人教師時代の嶋本に大きな影響を与えた,教育活動の指導者である曾根靖雅との関係について検討した。そして嶋本が関わったふたりのアール・ブリュットの表現者である友原康博と藤山晃代について,その活動を初期の段階から振り返って考察した。友原は中学生の時に,特異で個性的な試作品を大量に創作した。藤山は高校生の時に始めたさをり織りを主体に,旺盛に造形活動を展開した。彼らの活動を通して,嶋本が自身の創作活動と併行しながら実践した芸術教育活動の意義を明らかにした。