2017 年 49 巻 1 号 p. 385-392
本論文では,イスラム諸国における美術教育の包括的な特色と傾向について,特にイスラムという宗教との関連性に焦点を当てて明らかにした。イスラムを文化的基盤とする世界では,人物・動物表現が忌避されるなど美術表現に関してある種のタブーが存在することが知られているが,イスラムを国教とする敬虔な国々であっても,美術教育に相当する教科は存在している。それらの教科は概して,子どもの自己表現を重んじる近代美術教育の流れを汲むものであり,イスラムに関連する表現を学ぶような例は皆無である。しかし,多くのイスラム諸国において,人物・動物表現に対する是非や個人主義的な美術表現への疑問といった,イスラムと美術教育とのデリケートな問題が生じていることが明らかとなり,ムスリムの子どもに適した美術教育の必要性が考察された。